裁判沙汰のシンデレラ

 昔々、美しく心の優しい娘がいました。娘は、意地悪な継母とその連れ子である二人の義理の姉にその美しさを妬まれ、まるで召使いのように扱われていました。お母さんと二人の義姉は、つらい仕事をみんな娘に押しつけました。娘の着る服はボロボロのつぎ当てだらけ。寝るふとんは粗末な藁ぶとん、風呂に入る事も許してもらえず、娘の頭にはいつもかまどの灰が付いていました。そこで三人は娘の事を、『灰をかぶっている』と言う意味のシンデレラと呼んだのです。

 可哀相なシンデレラでしたが、それでもシンデレラの美しさは、義姉達の何倍も上でした。働き者のシンデレラは、召使いのように扱われても文句を言わず家事をこなしていましたが、悩みがありました。ぽっちゃり体型です。世間の男子はぽっちゃりを容認しているのに、そんな情報を知らないシンデレラは、痩せたい願望を強く持っていました。

 そんなある日、お姉さんのファッション雑誌をパラパラとめくっていたシンデレラは、某エステの無料体験の広告に目を止めました。「これだ!」早速電話で予約をすると、母と義姉達が留守の隙にこっそり出かけて行きました。

 その某エステは、駅のすぐ近くのビルの9階のテナントで、ホテルか高級レストランかというような綺麗で清潔感のある入口でした。受付でスタイルの良い美人のお姉さんにカウンセリングシートを渡されました。まだ何もしていないのに、ここに通えばこのお姉さんのように痩せて美しくなれるのかしら、とシンデレラは思いました。

 間もなく白衣を着た女性が現れて、コースの説明が始まりました。すぐに施術を受けられると思っていたシンデレラは、長い説明にイライラしてきました。でも、無料なんだから、と我慢して聞いていました。

 選んだのは「揉み出しミラクルコース」でした。何だか分からないオイルを全身に塗られ、二の腕、脇腹、太ももと、体中を痛いほどに強く揉まれました。

お腹にセルライトがかなりついているので、しっかり揉みほぐさないとダメだと言われました。身体が冷えているとのことで、温めてむくみを軽減するというパックをを勧められるまま行いました。

 施術が終わると冷たいハーブティーを出されました。美味しかったのですが、

シンデレラは早く帰りたいと思いました。継母とお姉さん達が帰ってくるまでに夕飯の支度をしておかないと怒られます。

 そんなシンデレラの気持ちをよそに、入会して本格的なコースを受けたらどうかと勧誘が始まりました。

「ごめんなさい、私お金無いんです」

早く帰りたい一心で、シンデレラは恥を忍んで正直に言いました。

お金が無いと言っているのに、カウンセラーは3カ月集中コースで30万円のものを薦めてきました。先着10人だけの特別なコースだそうです。

そのベテランのカウンセラーは、美人でたいして太ってもいないのに自分が太っていると悩んでいるシンデレラのような女が、一番のカモになることを知っていたのです。彼女は今月のノルマを達成するのに、あと200万必要だったので必死です。

とまどっているシンデレラに、カウンセラーは必殺の決め台詞を炸裂させました。

「大丈夫ですよ。分割払いのコースもあるんです。月々1万円ちょっと、1日にしたら360円、コーヒー1杯の値段で痩せて美しい体になれるんですよ。ね、決めちゃいましょうよ」

いまどきセブンカフェならコーヒー1杯100円だというのに、そもそも毎日コーヒーを飲む習慣なんか無いというのに、シンデレラはカウンセラーの鬼気迫る怖い顔、いや、熱心な勧誘に根負けしてついに契約書にサインしてしまいました。

 その日から継母達の目を盗んでこっそりエステに通い出したシンデレラでしたが、新たな問題が発生しました。支払いです。思い悩んだシンデレラは、またお姉さん達が読んでいたレディコミをパラパラめくっていて見つけた「簡単な接客アルバイト」の面接に出かけました。

 店長はその道のプロです。シンデレラが化粧して接客術を学べばすぐに人気嬢になるだろうと見抜き、即採用を決めました。継母達が寝静まった後に家を抜け出してアルバイトをする生活が始まりました。

 それからしばらくして、お城の王子様が舞踏会を催すことになり、義姉達は着飾って出かけました。シンデレラも行きたかったのですが、もちろん連れて行ってもらえません。一人になると、悲しくなったシンデレラは泣き出してしまいました。
 その時、どこからか声がしました。
「泣くのはおよし、シンデレラ」
「誰?」
するとシンデレラの目の前に、魔法使いのおばあさんが現れました。
「シンデレラ、お前はいつも仕事を頑張るとても良い子ですね。そのごほうびに、わたしが舞踏会へ行かせてあげましょう」
「本当に?」

魔法使いが杖を振ると、美しいドレス、かぼちゃの馬車、きらめくガラスの靴が現れました。魔法使いは1つ注意を与えました。

「12時を過ぎれば馬車もドレスも消えてあなたは元の粗末な姿に戻ってしまうから、必ず12時まで帰ってくるのよ」

シンデレラは、必ず注意を守りますと約束して、大喜びで舞踏会へ出かけました。

 さて、舞踏会に着いた美しいシンデレラは、たちまちみんなの注目の的となりました。エステで磨いた体と、アルバイトで学んだ話法も役立ったのでしょう。王子様もシンデレラに魅了されました。

 夢のような時間はあっという間に過ぎました。気がつくと、時計が12時の鐘を打ち始めています。魔法使いとの約束を思い出したシンデレラは駆け出しました。王子様は引き留めようとしましたが、シンデレラは履いていた美しいガラスの靴の片一方だけを脱ぎ落とし消えてしまいました。

 王子様は何とかして舞踏会の女性を探し出そうと、おふれを出しました。ガラスの靴がぴったり合う女性を自分の妻にする、というのです。身分の高い女性から次々にガラスの靴を試してみましたが、ガラスの靴がぴったり合う女性は誰もいませんでした。
シンデレラの義姉達の番になり、姉達は何とかしてガラスの靴を履こうと無理をしましたが、無駄でした。そこへシンデレラが進み出ました。義姉達は、召使いのくせにと大笑いしましたが、王子様の命令はすべての娘に試させるように、というものでしたので、使者はシンデレラにも履かせてみました。

するとガラスの靴はまるであつらえたようにぴったりでした。シンデレラは隠し持っていたもう片一方をポケットから取り出して履きました。使者は、この方こそ王子様の探しておられた女性だと、シンデレラをお城へ連れていきました。王子様はとても喜び、すぐにシンデレラにプロポーズしました。シンデレラの返事はもちろんOKです。

 数日後、お城は大騒ぎになりました。興信所の調査の結果、シンデレラがキャバクラでバイトしていたことが発覚したのです。婚約は解消です。シンデレラは継母達の家に追い返されました。継母と義姉達は、この恥晒しが!と、シンデレラに以前よりも辛く当たりました。とんだお騒がせ女め!と、世間からのバッシングも凄まじいものでした。

 悲しみに暮れるシンデレラのもとへ、1本の電話が入りました。

「王子様を訴えましょう!この婚約解消は不当なものです!」

噂を聞きつけた、功名心の強い弁護士からの申し出でした。

 

ーつづくー

 

追記:星井七億氏のブログ「ナナオクプリーズ」の大人気・桃太郎シリーズに影響されて書いたものです。

ナナオクプリーズはコチラ↓(読まれたこと無い方、オススメですよ)


ナナオクプリーズ